少年院でラグビー!<その2>社会復帰への道

生涯学習移動講座「Let’s enjoy rugby」開講。

画像

2011年11月9日。快晴。広々とした芝のグラウンドに4組に分かれた約70名の少年たちが整列し始めた。講座中は私語が禁止されているため、何事も粛々と行われる。どの顔も講師陣を前に緊張気味に見えた。
だが、望月氏指導によるウォーミングアップが始まり、少しずつ少年たちの表情が緩み始めた。続くラグビーボールを使ったゲームでは、「パス!」や「右!」「左!」などプレー以外の言葉はないものの、少年らしく張りのある声や笑顔がこぼれた。
上田氏の「ボールは生卵だと思って、大事に扱うんだ」というアドバイスに、少年たちのボール扱いが優しく変わり、「あわてないで丁寧に」と講師からも声を掛けられ、ボールを落とすようなミスが減った。4組あったのでそのチームに付いた講師によって、声の掛け方は異なるが、意志表示をすること、集中すること、共にゴールを目指すという協調性やチームワークの大切さなどをアドバイスされたと思われる。

画像

また、ラグビーボールを使ったバスケットボールとタッチフットの改良型ゲーム(通称バスビー)では、優勝チームが講師陣と頂上決戦を行い、本気度、やる気度、勝つ気満々の講師たちを見事に退けた。
明るかった。湧き起こる歓声や拍手。その光景を見る限り、しばし、ここが矯正施設であることを忘れさせてくれた。それは、彼らがどこの高校生とも変わらない姿に見えたからだ。
練習のクライマックスは、講師2名がコンタクトバッグを持ち、それを体当たりで走り抜けるというチャレンジをさせた。
これには「この体当たりのように、社会にも全人格を傾けて、真っ直ぐにぶち当たって行け」という講師たちのメッセージが込められている。少年たちはみんな思い思いの声を出しながら、全力で駆け抜けて行った。

画像

書くには少し抵抗がある。悲しい現実だが、彼らは加害者になる以前に、虐待など、被害者としてその人生をスタートさせている場合がある。むしろそういったケースが多いとも聞く。ただ、どんな理由や背景があるにせよ、彼らによる被害者がいることも忘れてはならない。確かなことは、法を犯したからこそ、一般社会とは隔てられた矯正施設に収容されているということだ。
上田氏率いる講師陣は、一期一会の思いを込めて、それぞれの形で「One for all,all for one(一人はみんなのために、みんなは一人のために)」の精神を伝えた。
これはラグビーの精神性をよく表わす言葉だが、決してラグビーに留めることなく、社会を構成する一人ひとりの心に灯す言葉であると思っている。
この「みんな」のところを「社会」に置き換えて欲しい。そうすれば出院後、彼らが社会復帰するために必要かつ重要なキーワードであることがわかる。「One for all」とは、利己的な自分を改め、利他の心で人に接し、社会のために自分を生かすことを意味する。
石塚氏いわく奉仕の精神である。そうした姿勢を持った人をきっと周囲は認めてくれるに違いない。そうあって欲しいと信じる。
彼らが社会に復帰するための道程には障害が多いはずだ。しかし、夢を持ち、決して自分を諦めずに、自らの意志で、自らの力で、自らの手で、未来を切り拓いてゆく覚悟が必要だ。

画像

「One for all,all for one」
生涯学習移動講座の講師を努めながら、この言葉の持つ意味を改めて噛み締めてみると、言うは易し、行うは難し……だと気付く。
もしこれがすぐに実践できるものであるなら、社会はもっと明るく正しく秩序あるものになっているに違いない。
まずは大人たちが実践し、秩序ある明るい社会を築かねばならないと反省すると共に、彼ら一人ひとりの社会復帰を願わずにはいられない。
                                                          (大元よしき)
                             「WE LOVE RUGBY!.」
【プロフィール】
大元よしき(タイゲン ヨシキ)
1962年生まれ。2003年外資系IT企業からライターに転身。スポーツのほか、歴史関連も執筆。弓道三段。保善高校からラグビーを始め、チームは2、3年時に花園に出場するが、グラウンドに立てたのは開会式のみ。東洋大学、関東社会人リーグの東急、ミノルタで17年間ラグビーと共に歩む。
著書に
「命のバトン~個性派不登校児と自閉症児の教室」
「1万回の体当たり~タックルマン石塚武生 炎のメッセージ~」
「一緒に見上げた空~自閉症児×元不登校児 武蔵野東ラグビー部の軌跡~」
「ジャパンラグビー革命」(上田昭夫/大元よしき共著)
「ファイナルマッチ~ノーサイドの時を迎えて~(小説)」(大元夏樹名で発刊)。
その他イーブックでは、
「猛き風~伊藤剛臣世界への挑戦~」「最後のスクラム(小説)」あり。