少年院でラグビー!<その1>開講までの道程

2011年11月9日。茨城県の少年院「水府学院」において、茨城県水戸生涯学習センターの生涯学習移動講座として「Let’s enjoy rugby」が開講された。
講師はTKM7(戸塚共立メディカルセブンズラグビークラブ)からGM兼監督の上田昭夫氏、HC兼TDの花岡伸明氏、ATの望月麻紀氏、コーチの清水良介氏。今回で3回目となる武蔵野東技能高等専修学校の天宮一大教諭と筆者の計6名が努めた。

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内容に触れる前に本講座の成り立ちについて記しておかなければならない。
この「Let’s enjoy rugby」は、2007年に前常総学院ラグビー部監督の故石塚武生氏の講師に始まり、その遺志を継いだ上田氏が、天宮氏と筆者の3人体制から、TKM7のコーチングスタッフを加えた6人体制へと発展させた。
ラグビーが矯正教育の一環として行われているのは、全国でもここ「水府学院」だけである。
この生涯学習移動講座が始まった背景には、ひとりの教師、小沼公道(水戸生涯学習センター課長であり、茨城県ラグビーフットボール協会普及育成委員長)の思いがあった。
「国民一人ひとりが……、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができる……と教育基本法にはある。ならば少年院に収容されている子どもたちも同じはずではないか。今からでも学習することの楽しさ、知識を探求することの素晴らしさを教えてあげたい。学校教育では伝えられなかった喜びを我々が生涯学習を通して伝えてあげたい」

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だが、実現するには分厚い壁があった。
少年院は法務省で国の施設。水戸生涯学習センターは文部科学省で県の施設である。法務省と文部科学省という異なる省庁、国と県の壁は強固に小沼氏の前に立ちはだかった。けれど、真っ直ぐな教師魂と理解者たちの協力により、それらの障壁を一つひとつ体当たりで乗り越えていった。そして「水府学院」と水戸生涯学習センターのコラボレーションによる「生涯学習移動講座」が全国初の試みとして生まれた。
ただ当初は、身体を接触させるラグビーのような競技は、少年たちにシコリを残し、後々院内で問題が起きる危険性があると考えられ敬遠された。
しかし故石塚氏は指導の最後に80名を超す少年たち全員から生身で体当たりを受けた。その身体を張った指導が、彼らに強烈なインパクトを与えたことにより印象を変えた。
以来、「ONE FOR ALL,ALL FOR ONE(一人はみんなのために、みんなは一人のために)」を基本的精神として、自律と自立、責任感、自己犠牲の精神、勇気、チームワーク、尊敬と信頼、利他の心、奉仕の精神、諦めない心などを、言葉を変え、形を変えながら伝え続けた。
しかし、残念ながら、2009年5月の講座が最後となった。
同年8月6日突然死症候群により石塚武生氏永眠。

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2009年8月。故石塚武生氏の告別式の席だった。上田昭夫氏は「俺は武生の遺志を継ぐから、おまえも武生との約束を果たしてやってくれ」と筆者に言った。
遺影の前である。出来るか出来ないかを考えるよりも、「やる」という意志が固まった。
その石塚氏と私の約束とは、指導スタッフ(ライターとしてではなく)として共に彼らと向き合い、他のスポーツやラグビーが、どのように矯正教育の中に生かされているのか、その意義や効果を探ると共に、家庭環境や親子関係における虐待やいじめなど、現代社会の歪から生まれる少年犯罪の背景を出来得る限り考察し、それを形にして発信してほしいというものだった。
それは少年院の矯正教育に留まらず、学校や家庭など広く教育全般にも通じるはずだという理由からだ。
それがお亡くなりになる6日前の私との約束である。
また「我々がやっていることが、本当に少年たちの社会復帰の役に立っているのなら、いつの日か、可能な限り、全国の少年院でもラグビー指導をやりたいと思っているんだ」石塚氏にはそんな夢もあった。
あの日、少年たちのことを語る石塚氏の目には涙が溢れていた。
私には石塚氏のピュアでひたすら真っ直ぐな思いが伝わってきた。
その2へ続く……
                                                         (大元よしき)
                            
                             「WE LOVE RUGBY!.」
【プロフィール】
大元よしき(タイゲン ヨシキ)
1962年生まれ。2003年外資系IT企業からライターに転身。スポーツのほか、歴史関連も執筆。弓道三段。保善高校からラグビーを始め、チームは2、3年時に花園に出場するが、グラウンドに立てたのは開会式のみ。東洋大学、関東社会人リーグの東急、ミノルタで17年間ラグビーと共に歩む。
著書に
「命のバトン~個性派不登校児と自閉症児の教室」
「1万回の体当たり~タックルマン石塚武生 炎のメッセージ~」
「一緒に見上げた空~自閉症児×元不登校児 武蔵野東ラグビー部の軌跡~」
「ジャパンラグビー革命」(上田昭夫/大元よしき共著)
「ファイナルマッチ~ノーサイドの時を迎えて~(小説)」(大元夏樹名で発刊)。
その他イーブックでは、
「猛き風~伊藤剛臣世界への挑戦~」「最後のスクラム(小説)」あり。